安全・支援の質
こどもの意思の尊重は個別支援計画にどう入れるか|6段階のプロセスと、記録に「誰の意見か」を書く
公開 2026-08-16
- 執筆
- フクシルベ編集部
- 実務確認
- fukube yuta
- 最終確認
まず全体像
支援の進め方
- こどもの育ちを理解し、信頼関係を構築する
- 選択肢と選択の機会を提供する(意思形成支援)
- 表出しやすい方法を工夫する(意思表出支援・意見形成支援)
- こどもに確認したうえで言語化して伝える(意見表明支援)
- 表明された意見を反映する(意見実現支援)

令和6年4月から、障害児通所支援事業や障害児入所施設の運営基準で、こどもの意思の尊重が求められています。こどもの意見の尊重と最善の利益の優先考慮のもとで、個別支援計画を作り、個別支援会議を開き、支援を提供することが事業所・施設の義務になりました。
その進め方を示したのが、こども家庭庁の「障害児支援におけるこどもの意思の尊重・最善の利益の優先考慮の手引き」(令和6年8月)です。理念だけではありません。個別支援会議での聴き方と、記録に何を書くかまで踏み込んでいます。
結論から
| 論点 | 手引きの内容 |
|---|---|
| 何が求められているか | こどもの意見の尊重と最善の利益の優先考慮の下での個別支援計画の作成・個別支援会議の実施・支援の提供(運営基準) |
| いつ意向を把握するか | 個別支援計画の作成時をはじめ、適時に、日々の支援の内容や将来の生活に関して |
| 誰の意向か | こどもや保護者。ただし権利の主体はあくまでこども |
| 個別支援会議での聴き方(例) | 会議の場にこどもや保護者に参加してもらう/開催前に担当者等が直接会う |
| 何を観察するか | 言葉だけでなく、身体の動き、表情、発声 |
| 記録に必ず書くこと | その意見がこども本人のものか、保護者のものかを明記する |
6段階のプロセス
手引きが示す流れは次のとおりです。
- こどもとの信頼関係の構築
- 意思形成支援 — 豊かな経験を通じた選択肢と選択の機会の提供
- 意思表出支援
- 意見形成支援
- 意見表明支援
- 意見実現支援
「意思」と「意見」で段階が分かれています。まず意思が形成され、表出される段階があります。その先に、意見として形成され、表明され、実現される段階が置かれています。
なぜ段階を踏むのか。手引きは、障害のあるこどもについて次の事情を挙げています。
- 言葉でのやりとりが難しい場合がある
- 事情により、余暇や文化的活動の経験が限られてきた場合がある
- これまでの育ちの中で主体性が育っておらず、意思を表に出す意欲そのものが委縮している場合もある
だから、いきなり「意見を聴く」から始めません。信頼関係と経験の積み重ねが先です。
「保護者の意向」に寄りやすいことを名指ししている
手引きははっきり書いています。障害のあるこどもの支援は、保護者の意見や意向を優先・尊重した支援になりやすい。そのうえで、こう続けます。
保護者の意見や意向を丁寧に把握し、尊重することは非常に重要であるが、権利の主体はあくまでこどもであることを十分に理解し、こどもに寄り添い、こどもの意思をくみ取り、こどもの意見を聴き、こどもの最善の利益の実現を目的として支援していくことが必要である。
言葉で表せないこどもへの支援
言葉で意思を表すことが難しいこどもには、道具を使います。手話、トーキングエイド、文字盤、絵カードなどのコミュニケーションツールを活用し、合理的配慮として意思表出を支えます。
そして、意見を言えないと決めつけないこと。日々一緒に過ごす職員は、信頼関係を作る中で、そのこどもの生活スタイルや選好が分かってきます。それをもとに意思を推し量る。言葉だけでなく、様子や行動の変化もくみ取る。そうやって意見形成・意見表明を支えます。
表明された内容が分からないときは、聴き返すだけで終わらせません。図や絵を描く、人形を使って遊ぶなど、やり方を工夫します。そのこどもに一番合う方法を見つけ、理解できるまで諦めない姿勢が求められています。
こどもの意見と「最善の利益」が食い違うとき
こどもの意見と、職員が考える最善の利益がぶつかることはあります。手引きも認めています。将来を見据えた最善の利益を考えて、こどもの意見や希望を実現できないこともある。
そのときの対応として示されているのは次のとおりです。
- こどもの意見を否定せず、受け止めて傾聴する
- 事業所・施設の職員が役割分担して対応する
- 職員以外の意見表明等支援員を活用することも考えられる
意見表明等支援員は独立性のある存在です。あくまでこども主導で、こども側だけに立ち、その真のニーズが実現するようこどもをエンパワメントする役割です。
もう一つ。表現していても、本人の意図と違う言葉遣いになるこどももいます。だからその都度、こどもに意思を確認します。このとき、大人主導の誘導になりやすいことを意識したうえで確認することが大切です。
組織運営の8つの留意点
個々の職員の努力に頼らないため、手引きは組織側の論点を8つ挙げています。
- 職員の意識の向上 — 基本理念や運営方針への明記、掲示物の掲示、施設長やスーパーバイザー等による日頃からの発信
- 知識・技術等の向上 — 手引きを使った研修、事例検討の積み重ね、文献学習、内部勉強会、OJT、外部研修。自前で難しければ、市区町村・都道府県・社会福祉協議会の研修を使ってよい
- 組織体制の整備 — 権利擁護の責任者の配置と、検討する会議の定期開催。苦情の受付窓口や第三者委員との協働
- こどもに対する説明 — こどもが権利の主体であることや苦情解決の手順を、できる限り分かりやすい方法で説明する
- 記録の作成・保存・活用(下記)
- 関係機関・関係者との連携
- 事業所・施設の運営へのこどもの参画
- 障害児入所施設の生活単位・活動単位の小規模化
3の狙いを、手引きはこう書いています。責任者と会議があれば、「個々の職員の意識や判断に過度に依存せず、どのこどもにも一定・同様に」権利擁護の支援を提供できる。
記録に「誰の意見か」を書く
記録について、手引きが明確に求めているのがここです。
こうした記録の際には、その意見がこども本人のものであるか、保護者のものであるかを明記しておくことが、こどもを権利の主体とした支援を行うに当たり重要である。
ほかに記録へ残すものとして、次が挙げられています。
- こどもの生活環境や家族関係、人間関係や嗜好等の情報(本人の意向を推定する手がかりになる)
- 日常生活における意見表明の方法、特定の表情や行動から読み取れる意向・感情
- 客観的に整理や説明ができないような「様子」も残し、積み上げる
- なぜそのような支援を行ったのかについての判断の根拠と支援の結果
- アイコンタクトや視線、表情、仕草、身体の動き、行動などの感情の表し方。快・不快の反応や好み。些細なものでも残し、会議の場も使って職員間で共有する
根拠になっている枠組み
土台は、児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)です。4原則は「生命、生存及び発達に対する権利」「子どもの最善の利益」「子どもの意見の尊重」「差別の禁止」。第12条第1項が意見表明権を定めています。
国内の動きは次のとおりです。令和5年4月にこども家庭庁が発足し、こども基本法が施行されました。こども大綱も作られました。令和4年改正児童福祉法(令和6年4月施行)が権利擁護の環境整備を定めました。社会的養護の分野では、令和5年12月に「こどもの権利擁護スタートアップマニュアル」ができています。この手引きは、そこへ障害のあるこどもの特性を踏まえた取組と方法を加えるものです。
児発管の視点
児発管がここで見るのは、計画と記録の様式です。運営基準に入った以上、実地指導で見られるのは「理念があるか」ではありません。記録に残っているかです。手引きが名指しする「意見が本人のものか保護者のものか」の区別は、既存の記録様式に無いことが多い項目です。様式に欄を1つ足すのが手早い対応です。
詰まりやすいのは、面談の場に保護者だけが来るときです。送迎時のやりとりも、保護者から聞いた話が中心になります。記録を後から読み返すと、こども本人の意見が1行も残っていないことが起こります。たとえば「宿題を先にやりたい」が本人の言葉か、保護者の希望かで、計画に書く目標は変わります。欄が1つあるだけで、そこを分けて書けます。
個別支援会議は、「開催前に担当者等がこどもや保護者に直接会う」が例として挙がっています。会議当日にこどもを同席させるのが難しくても、事前面談なら組み込めます。
組織側の8項目のうち、責任者の配置と定期会議は年度当初に決められます。研修は、市区町村や都道府県、社会福祉協議会の実施分を使ってよいと書かれています。自前で用意できないときの手がかりになります。
公式資料
この記事は手引きの範囲をまとめたものです。取組例は多数示されているため、実際の運用は手引き本文を確認し、個別の取扱いは指定権者へ確認してください。
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